正直不動産

 ある時町中を歩いていたら、よほど私が不動産屋さんに見えたのか、一人の老人が「ちょっと見てくれ」と私を自分の家へ請じ入れた。

「中にあったものは全部出したけんど、これが持って行かれたらいっちゃけんど」と指差した。

見ると空き家の大黒柱に、

「小学1年生、小学3年生のころ」などとエンピツや小刀で刻んだ印がついていた。

「うんにゃ、こら、じいちゃんあんたげん宝じゃが」

「こん家、売りやったっね?」

「うんにゃこれからじゃっど!」

「なんとかできんもんかな~」

「外してでん持っていかんね!」

「まっこち、それが出来ればいっちゃけんど!!」

家は、「あの頃の今」が見えるタイムマシンかも知れません。

その後少し話をして外に出たところ、少し離れたところに「売家」の看板が出ていました。

 ステテコにランニングのおじいちゃん、一生忘れられない思い出です。